先月、札幌では納骨堂が閉鎖されるというニュースが話題となりました。高齢化や核家族化の進展、先祖の供養や自身の死後に関する価値観の多様化、世相の変化など、近頃のお墓に関する事情を探るため、中央区にある専門店に直撃取材してきました。
そのお店は、南1条西11丁目にある「お墓あんしん相談室」様です。以下、同店からいただいたお話と資料の情報に、札幌市の市営墓地の情報なども交えお届けいたします。
●「終活」の一環として、お墓の相談が増えている
「終活」という言葉は、一般的には「人生の終わりについて考える活動」と言われています。しかし単に「エンディングの活動」ととらえるのではなく、「人生の終焉を考えることを通じて、自分を見つめ、今をより良く自分らしく生きる活動」と定義する考え方(一般社団法人 終活カウンセラー協会)もあります。
いずれにせよ、「子に迷惑をかけたくない」と考える人が増えていて、日々相談に来られているとのこと。相談者は60代が多く、生きているうちに自分や家族のためのお墓を建てる(寿陵:じゅりょう)場合や、遠方にあるお墓を墓じまいして札幌へ移す(改葬)相談が多いとのことです。
●公営墓地と民営墓地
お墓には、自治体が管理・運営している「公営墓地」と、宗教法人などが運営している「民営墓地」があります。
札幌市が管理運営する公園式墓地(市営霊園)は、平岸霊園、里塚霊園、手稲平和霊園の3ヵ所があります。また、町村合併により札幌市が管理することになった墓地(旧設墓地)が17ヵ所あり、このうち中央区には円山墓地と盤渓墓地があります。
公営墓地は、民営墓地に比べて「永代使用料」や「年間管理費」が安く、宗教的な制約や石材店の指定も、基本的にはありません。札幌市においては、数年おきに行われる募集に当選した方のみ利用することができますが、墓所の大きさは希望できても場所は選べないとのことです。また、申込み条件として住まいの住所やお骨の有無などの制限が定められており、事前の確認が必要です。
一方、民営墓地は札幌市内に3ヵ所あり、真駒内滝野霊園、藤野聖山園、簾舞霊丘公園で、いずれも南区に立地しています。
民営墓地の最大のメリットは、墓地を購入するための「資格」や「条件」が少ないことです。お骨の有無も問われないため、生前にお墓を建てたいと検討されている方には適しています。そして、空きがあれば墓所は好きなところを選ぶことができ、駐車場や法要の施設などが充実しているといった特長がありますが、料金(永代使用料・管理費)の設定が公営と比べると多少割高なケースもあります。
●お墓の引っ越しには手続きが必要
「改葬」とは、言わばお墓の引っ越しということで、近い言葉に「墓じまい」がありますが、お墓を撤去して更地に戻すことを「墓じまい」、現在とは異なるお墓に遺骨を移動させることを「改葬」と呼びます。お墓の引っ越しにかかる時間は、ご相談いただいてから移転先に納骨するまでに概ね2〜3ヵ月程度かかるとのことです。
「改葬」にあたっては、自治体が発行する「改葬許可証」のほか、現在お骨を保管している墓地・寺院・納骨堂から発行してもらう「収蔵(埋蔵)証明書」、そして新たな場所(改葬先)の「永代使用許可証」や「受入証明書」などの書類が必要な場合もあります。また、現在のお骨の保管場所の使用権者以外の方の名前で改葬許可証を発行してほしい場合は、現在の使用権者からの承諾書が必要です。
墓じまい後の供養先(方法)としては、「新規でお墓を用意する」、「納骨堂」、「散骨」の大きく3つに分けられるとのことです。
契約してからお墓ができるまでには、規格墓所・供養墓の場合は約1ヵ月かかります。
なお、札幌市のホームページによれば、遺骨を自宅に移して保管することは「改葬」に当たらないので改葬手続きは必要ないが、将来、別の墓地・納骨堂へ埋蔵・収蔵する際には改葬手続きが必要になるため、そのときに備え、現在遺骨を保管している墓地・納骨堂から「収蔵(埋蔵)証明書」を発行してもらい、遺骨と併せて保管しておくことを推奨するとのことです。
●凍結対策と地震対策など
寒冷地でのお墓づくりは、住宅を建てるのと同じくその気候に合わせた基礎が大切です。公共団体が条例で定めている「凍結深度(冬期間に温度が下がり、土が凍ってしまう深さのこと)」を守る必要があります。市町村によって掘る深さに違いがあり、札幌市は60㎝、帯広市は100㎝、北見市の一部区域では120㎝となっています。
地震対策も重要なポイントです。2018年の北海道胆振東部地震では、「里塚霊園」の多くのお墓は倒壊などの被害を受けました。今回取材したお店の本社(帝北石材)では、免振工法(特許取得)による施工もしているとのことです。
また、北海道の気候に合わない石でお墓を建てると、風化も早まり、数十年で補修や交換が必要になる場合もあります。北海道のように雪が降り温度差の激しい環境では、「吸水率」で耐久性に大きな差が出ます。あまり水分を吸収せず、硬めの石が墓石に適した石の条件となります。
●ニーズは様々。ペットと一緒も!?
お墓の相談に来られる方のニーズは様々で、価格や近さ、埋葬人数といった条件のほか、将来、車を使わなくなることを想定して「霊園までのアクセスに専用バスがあるか」とか、ペットのお墓をつくれるか、といったことも尋ねられるそうです。納骨堂の場合は、1体当りの計算となり人数制限もあることから、埋葬人数が多い場合は、お墓を作ったほうが合理的かもしれないとのことです。
また、宗教色よりも樹木や花などガーデニングの要素を取り入れた永代供養墓が増えてきており、その要因としては、今後お墓をみる方がいないとか、次の代がいないという方が、ご先祖のお墓を片付けて、このような永代供養の仕組みがあるお墓へ移すということが多くなっているようです。
さらには、ペットは家族の一員と考える傾向も増加しており、ペット好きな人は5匹~10匹飼われている人もいて、ペットのお墓をつくることにより、自分の墓を考えるきっかけとなった人もいるとのこと。今ではペットだけの合葬墓もあり、ペットがらみの相談は、全体の20%くらいあるようです。
コロナ禍となり、「お墓あんしん相談室」では、ご相談も電話、LINE、メールなどでも受けておられますが、やはりお墓は大事なことなので、来店される方が多いとのことでした。
石材店や霊園などに相談する場合、「契約しなければ」というプレッシャーを感じる可能性も想定されるため、お墓を建てるのか、ほかに供養先はどんなものがあるのか、ペットと一緒にしたいのか・・・など、具体化する前の相談を、初めての人にも安心して相談できる店として、2020年11月にオープンされたとのことです。お気軽にご相談されてみてはいかがでしょうか。
(取材日:2022年11月4日)